第38卦 初爻
睽(けい) - 対立
初九:悔いなし。馬を失うも、追わずして自ずと戻る。悪しき人に会っても咎なし。
爻辞
初九:悔亡。喪馬,勿逐,自復。見惡人,无咎。
初九:悔いが消え去る。馬を失うが、追いかけてはならない。自然に戻ってくる。嫌な人に出会っても咎められない。
解説曰く:嫌な人に出会うことは、咎を避けるための教えである。
解釈
この初爻は、対立や誤解の始まりを示しています。最初の感覚は安堵感(「悔いなし」)であり、潜在的な過ちや不安の種が回避されたことを意味します。しかしすぐに「馬を失う」という損失が続きます。馬は力や前進、志を同じくする仲間との繋がりを象徴し、その喪失は一時的な離別や計画の挫折、誤解による亀裂を表します。重要な助言は「追わないこと」です。無理に取り戻そうとすると対立が深まり、さらなる問題を招きます。節制すれば「自然に戻ってくる」と約束されています。最後の「嫌な人に会っても咎なし」は、この対立を象徴する相手が必ずしも悪人ではなく、根本的に意見が合わない相手であることを示します。違いを悪意と誤解せず、冷静に受け入れることで、争いを避けることができるのです。
行動への指針
誤解やすれ違いが始まったばかりの状況にあります。大切なものや人、友人やチャンス、重要な資源を失ったかもしれません。すぐに追いかけて修復しようとする衝動に駆られるでしょうが、易経は逆の行動を勧めています。忍耐と節制を心がけ、手放すこと。真の繋がりや適切な機会であれば、自然と戻ってくると信じましょう。この間、困難な人や対立的な人に出会うかもしれませんが、厳しく判断せず、争いを避けて誠実に対応してください。勝ち負けを争うのではなく、争いを起こさないことが肝心です。
恋愛・人間関係において
この爻は、関係の初期段階でのすれ違いや大きな誤解を示します。一方が距離を置いたり離れてしまった状態(「失われた馬」)です。相手を追いかけて話し合いを求めたり、連絡を強要したり、無理に和解を図ろうとするのは避けましょう。相手にスペースを与えることが大切です。追いかけるほど相手は遠ざかります。関係の基盤がしっかりしていれば、相手は自らのタイミングで戻ってきます。「嫌な人」とは、今の対立状態にあるパートナーや、摩擦を生む友人・家族のことかもしれません。彼らを悪者扱いせず、冷静に状況を見守ることで、咎められることなく関係を保てます。
仕事・ビジネスにおいて
プロジェクトが停滞したり、契約が破談になったり、重要な同僚や取引先が協力的でなくなった状態が「失われた馬」です。無理に問題を押し進めようとせず、一歩引いて状況を落ち着かせましょう。難しい同僚や競合相手に対しては、彼らの異なる視点や目的を個人的に受け止めず、感情的にならずに対応することが肝要です。そうすることで咎められることなく、失われた機会や協力関係が別の形で戻ってくる可能性があります。
金銭・財務において
最近の予期せぬ金銭的損失を示しています。投資の失敗、入金の遅れ、事業の失敗などが考えられます。これが「失われた馬」です。損失を取り戻そうと焦って無駄な出費を重ねたり、債務者を強引に追い詰めたりしないことが重要です。状況を一旦静観し、忍耐強く待つこと。市場の状況が改善したり、財務状況が自然に回復する可能性があります。「嫌な人」とは債務者やビジネスパートナーのことかもしれません。怒りに任せず冷静に対処することで、さらなるトラブルを避け、咎められることなく乗り切れます。