第10卦 三爻
履(り)
六三:眇能視
爻辞
六三:眇能視,跛能履。履虎尾,咥人,凶。武人為于大君。
片目の者は見ることができ、足の不自由な者も歩むことができる。虎の尾を踏むが、虎に噛まれる。凶。これは武人が大君のために行う行動である。
解説曰く:「武人が大君のために行う」とは、彼の意志がただ硬く強いだけであることを示す。
解釈
この爻は、無謀で度を越した行動の象徴を示しています。描かれている人物は「片目」で「足が不自由」という制約を持ち、視野が狭く能力も限られていることを表しています。にもかかわらず、虎の尾を踏むという危険な行為に挑もうとします。その野心は能力を大きく超えており、結果は避けられません。虎に噛まれるという凶兆は、痛みを伴う失敗や不運を意味します。最後の「武人が大君のために行う」という言葉は称賛ではなく、力任せで盲目的な決断をする者の姿を描いています。真の指導者に必要な知恵や慎重さを欠き、頑固さを強さと勘違いして突き進む様子を警告しています。この爻は、過信や衝動的な行動、自己の限界や状況を正しく見極めないことへの厳しい戒めです。
行動への指針
今は自己の能力と現状の理解を正直に見つめ直す重要な時期です。自尊心や野心、義務感に駆られて準備不足のまま行動を起こしてはいけません。視野が狭く(「片目」)、基盤が弱い(「足が不自由」)状態で突き進むことは、痛みを伴う挫折を招きます。立ち止まり、計画や資源、盲点を再評価しましょう。自分の限界を認めることは弱さではなく、この状況で最も賢明な判断です。力任せに動く「武人」ではなく、情報を集め、助言を求め、道が明確で自分の力が十分であると確信してから進む戦略家でありましょう。
恋愛・人間関係において
この爻は、一方的な視点で問題を無理に押し進めることへの警告です。自分は問題を「見えている」と感じていても、実際には「片目」で相手の立場や気持ちを見落としている可能性が高いです。要求や非難、最後通告のような態度(「虎の尾を踏む」)は非常に危険です。相手は脅かされ、誤解されたと感じて怒りや防御的な態度、あるいは距離を置くことで反撃し、関係に大きな亀裂を生じさせるでしょう。今は勇ましい対決の時ではなく、自分に答えがないことを謙虚に認め、誤った前提の「足の不自由な歩み」を止めるべき時です。自分の役割を認め、理解を深める姿勢が求められます。
仕事・ビジネスにおいて
この爻は、現在の能力や権限を超えたプロジェクトに手を出したり、上司に挑戦したり、大胆な行動を取ろうとする危険な状況を示しています。努力や決意だけで乗り切れると考えているかもしれませんが、情報や能力が不足しています。これは盲目的な忠誠心や野心に基づく「武人」の心構えであり、戦略的な先見の明を欠いています。このまま進めば失敗や叱責、信用失墜(「虎に噛まれる」)を招くでしょう。すぐに一歩引き、複雑な状況を過大評価せず、慎重に助言を求めることが賢明です。軽率に見えるよりも、慎重であることが評価されます。
金銭面において
この爻は、投機的または衝動的な金銭行動に対する重大な警告です。チャンスを見つけたと思っても、それは「片目」で全体像やリスクを見落としている可能性があります。限られた情報で動くことは、変動の激しい市場の「虎の尾を踏む」ようなものです。急激な損失(「虎に噛まれる」)のリスクが非常に高いです。短期での一攫千金や高レバレッジ取引、理解しきれていない投資は避けましょう。利益への意欲は強くても、知識や戦略の基盤が「足の不自由な状態」であることを自覚し、慎重に行動してください。自尊心に流されず、確実な方法を守ることが肝要です。